テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻


テンペスト 下 花風の巻 テンペスト 下 花風の巻
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¥ 1,680

テンペスト 上 若夏の巻
シャングリ・ラ 上 (角川文庫 い 51-4)
シャングリ・ラ 下 (角川文庫 い 51-5)
野性時代 第58号 62331-59 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 59)
ぼくのキャノン (文春文庫)

■見事、大団円! 評価5 日付2008-10-21
 宦官として王宮に入った寧温の八面六臂の活躍を描いた上巻に対して、下巻はその表紙の色、紅型の赤の示す通り真鶴の運命を描いている。
 圧巻なのは最終章である。琉球王国の滅亡は誰もが知るところだが、それを悲劇に終わらせないところがこの物語の優れた点である。
 国の終わりとともに身を投げた登場人物たちは、まるで沖縄戦で自決した人たちの心を代弁し、魂までも浄化したような錯覚に陥る。
 琉球の死は、日本にとってもウチナンチュにとっても意味ある死として現代までつながっていることを、陰にも陽にも訴えている。
 実際の歴史をもとに突飛なフィクションを融合させた本書には読み終わってもなお、もっとこの世界に浸っていたいと思わせる中毒性がある。
 間違いなく池上永一の代表作と言える。
■人物・心情描写がすばらしい 評価5 日付2008-10-06
主人公の友人・兄の愛憎が混じったまさにアンビバレントな感情

同じ側室でありながら何かと手をさしのべてくれる主人公の親友。
家柄・財産・美貌・教養・人柄すべてを持ち合わせているのに同じ女性として、読んでても全然腹がたたない。
そして、飛びぬけた知能と、美貌を持ち合わせた主人公。

ここまで完璧で純粋な人間いるわけないやんと思わせる余地のないほど描く筆力にはただただ感心するばかり。

形あるものはいつかは滅びるということと
長年の別離にも関わらず変わらないものもあったということ
見事に対比させたラストシーンは、普通によかったと思いました。
■題材と不似合いな表現方法が気になる 評価3 日付2008-09-29
物語が長すぎて、個々のエピソードが繋がっていない感じがする。たとえば、話の都合と歴史の都合上で仕方がないとは思っても、こんなにもあっさりと宦官「孫寧温」が蘇ってしまっては、せっかく夢枕に立って男物の帯と簪をあの世へ持ち去ってくれた父君の立場がないではないか。そんな風に、細かいところで物語の辻褄があっていない。また、この人の作風はもっとあっけらかんとエロで変態なのに、強姦とか輪姦とか、やたら性を食い物にしているようなエピソードが出てきて、しかもその事件がそれぞれの登場人物において、いともあっさり受け流されてしまうことも、女性の読み手としては疑問と不快感を誘われた。
近代直前の琉球王朝という題材に、語りの表現方法が追いついていないのも気になった。変に今風なカタカナ語や作者の造語まで飛び出して、なんだか物語のダイナミズム「だけ」でさまざまな瑕疵をごまかしているような気持ち悪さがつきまとう。せっかく、まだ日本人作家が誰も手がけていない場所と時代を書いているのだから、歴史小説好きにもアピールできるような文章であればもっとよかったのにと思う。作者はいったいどんな読者層を予定してこの物語を書いたのか。
本人の志向とは別に、この人は短編の方が上手な気がする。
■「ページを繰る手が止まらない」は、掛け値なしかもしれない 評価5 日付2008-09-20
著者は沖縄那覇出身、石垣島在住である。これまで沖縄、琉球を題材に、
ファンタジー大賞を受賞した「バガージマヌパナス」などの話題作を発表してきた。
著者の魅力は、何というか、突き抜けたように明るい「土着性」とでもいおうか。
土着というと暗さを連想しがちだが、著者の描く沖縄は、独特のファンタジアであり、
たとえば東北あたりの土着性とは完全に一線を画す。

「テンペスト」は琉球王朝時代の物語。
これが、とにかく面白い。スイスイと読みやすい面白さではなく、
急流を流れ下るようなダイナミズムが満ちあふれている。
わくわく感、どきどき感、てんこ盛りだ。

書店などに行くと、そうそうたる評論家、作家の「推薦文」がずらり。
よくぞまあ、ここまで集めた、さすが角川と最初は思っていたが、
いかに角川とはいえ、これだけのメンバーがお義理で絶賛の推薦文を書くわけもない。
額面通り、「血湧き肉躍る」物語だ。
ファンタジー的な要素も含まれており、物語としての整合性となると疑問符をつけたくなる
部分もないでもない。しかし、そんな細かいことどうでもいいぐらいに、
どんどんページが進んでいく。

最近は長編小説を読むエネルギーも少々なくなりつつあるが、
上下段800ページ以上、一気読みだった。
まるで「元気」を与えてくれたようだ。
私としては間違いなく今年の「ベスト1」である。

■歴史と個のダイナミズム/両義的重合 評価5 日付2008-09-17
始めに言っておくと
この小説のおもしろさは異常だ。
あまりにも魅惑的で、文章から離れることができなくなる。
読めば読むほど、この世界に魅せられ、酔わされる。
物語性、つまり世界観の設定がそうさせるのだろうか。


この話は19世紀初頭から末、実在した王国、琉球王朝末期を舞台とし、孫寧温(=真鶴)という女性を主人公とし、第三者的な語りで話が進められている。
琉球王朝が持っていた、宗教、文化を元に、そこでの精神性、思想、人々の世界認識が表れており、国家間の外交問題、国内の情勢・政治的問題、また男と女、両方の性を生きることとなった主人公を中心とした人間関係、出世、失墜、性の反転という稀有な人生を描きながら近代化によって、王国が崩壊するまでを描いたものである。


歴史事実を背景に持ちながらも、個の歩みを通しながら、それを追ってゆくことで、また現代的感性で語ることによって生きた文章と、歴史小説とはくくれないほどのリアリティを持つ。
しかし、ここでのおもしろさはそんな理由では記述できないのだ。
史的事実とフィクション、宗教的精神性と合理主義的理性が重ねられ、ファンタジーでもありリアルでもある。
そうここでは両義的性質が重ねられた、アンヴィバレントな現象、人物達が恐ろしいほどに読む者に想像力と妙な現実感を感じさせる。

巧みであるのは、この両義性を数々の事象や登場人物に反映させている点にあるといえる。

主人公の孫寧温は女性として生まれながらも、ここでの制度的問題により、男性でしか登用されない国の役人に性を偽ることでそれとなり、男性的で女性にはないとされていた理性的知性を天才的に持ち国のトップまで登りつめ、またその稀有な美貌から王の側室としても王宮に入るという、二重の人生を歩んでしまう。男として国家に仕え、同僚達と友情を交わし、女として恋をし、想いを交わす。男としての寧温は公人として理性をもってして生き、女としての真鶴は私人として情感をもってして生きる。

そして、中世・近世から近代への移行
これにより、国家は解体され、国家を前提にする社会は崩壊し、ひとつの個となった主人公はその両性が幸福に融合する。国家から解き放たれたひとつの個は、しがらみを越え、想いを交わした人と生きることが可能となり物語は終わりを告げる。
国家を愛し、命を捧げた主人公であったが、悲しくもその国家の崩壊により、個として幸福に生きることができたのである。それは新時代への希望を力強く描くものだ。

この移行は
精神性が支配する社会モデルから理性による社会へ
国家が統率する社会から個による社会へ向うものである
宗教的精神性をもつ世界観を基盤にしながらも物語は最後にそれを破壊し、また主人公の両性の融合という、基盤となっていた設定を露わにした。

つまりこれはマジックリアリズムの作風を持ち、自己言及的な作品として位置づけることができるだろう。

僕はこの魔術的で現実的でもあるこの世界から当分離れられそうにない。
鮮やかなのだ。実に。
恋をしてしまった。
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